そして二人は幸せに暮らしました~その1~

「一月銀貨5枚、一年で金貨6枚分だ」
「ぁ」
あっと覗き見がバレちゃう。金貨が6枚なんて、そんなのおとぎ話の中でしか見たことがないのにあの人はいったい誰なんだろう。お金持ってるんだなぁ。でもなんで私の家に来てるんだろう。家にある麦をまとめて買うとか?それはないよね、いきなり麦不足になるならわかるけれどいつもと同じ感じだからいつもどおりの量が残るはずだし。金貨6枚ってどれだけ多いのかな。それだけあればあの麦全部買えるのかな、でも金貨は一枚でもすごいんだから6枚だと山のような麦を買えちゃうんだろうな。
「ちょっとぼんやりしてますがよく働く子なので、雇っていただけるときっと」
「本人を見ないとわからない。が、きっと大丈夫だ。掃除や裁縫ができれば十分だ」
あの子ってどの子?私か。ポーリアはまだ5歳だし。あれ、何だ麦じゃないんだ。掃除とお裁縫をする話?私がするの?
「それではその子をここに」
「少しお待ちください」
こっち来た。歩こう、逆方向に来た感じにしないと。うん?でも別に悪いことをしていたわけじゃないんだから誤魔化す必要ってないよ
「ああリアリ、ちょうどいいところに」
「お母さん何?」
「この前の話なんだけど」
いつの話?
「なんだっけ」
「領主様の所で働くって話」
「領主様!?」
あの丘に立っている綺麗で大きいお屋敷ピカピカ光る真っ白くて大きいあのお屋敷。リョーシュサマっていう人じゃないんだよね、あの領主様だよね、ここって領主様ってたくさんいるなんてことねいよね、領主様って一人のはずだよね。えっ私あそこで働けるの、麦を運ぶことしかできない私が、あのお屋敷でそんな夢でも見ているのかなきっとそうだよ。だって昨日は同じ日だったし明日も同じ日なんだから。そんないきなりお屋敷に行けるだなんて。あっそうかだから金貨6枚だったんだやっぱりあのお屋敷にはおとぎ話の中に出てくるお屋敷みたいにたくさんの金貨とかがあるのかな。あるはず、海のような麦もあるはず。そこで私が働くの?やっぱり夢なのかな、私今起きてるの、起きてるよね、起きているはずアレ?
「えっあぅね、ね、ねぇリョーシュサマっていう名前の人じゃなくてあのお屋敷の領主様だよね」
「何よくわかんないこと言っちゃって、領主様って言ったらここいらにはあそこのに決まっているじゃない」
「あの、そんな話されたたっけ」
「あっあんたまた話聞いてなかったんだね。じゃああの時のうんも適当だったのね。どうすんの、お母さん娘が働きますって言っちゃったんだよ」
あそこで私が働く。でも、お屋敷で働くって何を?お裁縫、お裁縫って言った。もしかしてお姫様?お后様?お嬢様?のドレスを私が縫うの。ドレスって私のスカートとどう違うんだろう。どうしよう怒られる気しかしないよ、あでもきっとドレスを縫うのはもっとキラキラしたような人がするんだよ。じゃあ何を縫うのかな、掃除もか。
「どっちなんだいさっさと答えな」
「ねぇ働くって何をするの?」
「雑用よ雑用。あんたがいつもやってるようなことをやればいいのよ」
「あのお屋敷で」
「そうよ」
私がやってること、ポーリアの世話をしてお父さんお母さんの手伝いをして、ご飯を食べて寝る。あと麦畑を見る。それをお屋敷の中で!ポーリアは連れていけないよね、だから領主様の子供?王子様だ王子様のお世話をするの。でもお屋敷には一杯人がいるんだ。いっぱいいる仕えてる人と一緒に王子様をお姫様かも知れない。育てるのかな。領主様もお姫様、お后様?王女様?領主様の奥さんだから・・・・・・奥さんもとっても美しくて立派な人なんだろうな。それを
「で、どうなの」
「ぅん、うん働くよ私働くから」
「大丈夫かい?」
「大丈夫だよ、私もただぼーっとしてただけじゃないんだから」
「じゃあ何をやってるんだい」
「いろいろ考えてたんだよ、色々」
どうやったらたくさんの麦を私でも運べるかとか、カラスはなんで飛べるんだろうとか、麦ってあんなに小さいのにどうして大きくなるのか、麦は草なのになんであんなにピカピカ光るのかそうそう一粒がどうしてあんなにいっぱいになるのかとか、どうすればいっぱい歩いても足が痛くなくなるのとか、
「奥さん、この子ですか」
「はいそうです」
お髭を生やした紳士様鋭い目鳥みたい。やっぱり領主様の人はとっても立派なんだ。やっぱりお屋敷みたいにみんなピカピカして、私も。
「今いくつだ」
「えっと」
年の事を聞いているっていうことで大丈夫?これお母さんには聞いちゃいけないよね。10が2個、3個前かだから、まだ季節は来てないから変わってないからだから
「じゅう・・、さんです」
「君は裁縫は出来るかい」
ドレスは作れないけど大丈夫だよね。
「出来ますけど」
「何が好きだい?」
「む麦です、キラキラ光る麦畑が」
「ふんふん」
じっくり見られてるけれど、これでもしこの子じゃ領主様に似合わないってなったら私はあそこにはいけないの。お屋敷にはふさわしくない。こんなことになるんだったら服もこれじゃなくてもっと綺麗やつがあったのに。ちゃんと話聞いていれば。
「特に問題はなさそうだ」
良かった。けど見られるだけでよかったのかな、お屋敷で働くんだからもっとこう、うん大丈夫だったんだね。
「特に持っていく荷物はあるか。小さいもので、だ」
「イえ別に」
「では行くぞ」
「えっもう」
もう行くんだ。もう行くんだ。さっき覗き見してたのにもう行くんだ。お屋敷行くんだ。早くないの、これえ?紳士様についていけばいいの、このままこのままいくの。お母さんたちなんか話してたけど何話してたんだろう。ええと、何かは話してたんだよね。本当にこのまま行くの?さっき話し聞いたばっかりなのに、もう行くんだ。ちょっと待ってどうしよう。いきなり、領主様のお屋敷でってなって、ええと。とりあえず話してみよう
「あの、歩いてお屋敷に行くんですか?」
「ここから見えるだろ。あれに乗るんだ」
「・・・馬車だ」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ目をつぶったら雷の音。木木木木木木木木木木木木木木木木木木木木木木木木木木木木木犬だ。ジョンストンさんの奥さん。ああ、もうこんなに離れちゃった。家がもうあんな遠く。
「速いなぁすっごい速い。この馬車すっごい速い」
「馬車がそんなに珍しいか?農家なのに」
「だって馬車は麦しか乗せないんだもん」
「そうかい、君はこんな簡素な馬車でも王女様の馬車みたいに見えるのかね」
「領主様の馬車だから」
「領主様の馬車は君が思うよりもっと立派だ」
これよりも立派。この馬車より立派って金色の馬車。でもそんなもの本当にあるのかな。これよりもずっとずっと大きいとか。フカフカの柔らかい椅子がついているとか。そうだよそう、私が乗れるくらいの馬車に領主様が乗るはずないもの。
「あの、どうして私なんですか」
「何がだ」
「さっき見ただけで私でいいって」
「家が貧民ではなく、健康そうで会話が成立する常識が有り、裁縫が出来る。あと農家の娘ならば力仕事もできるだろからな」
「はぁ」
本当に家でやるようなことだけでいいのかな?綺麗なお屋敷には麦はないし、まさかずっと裁縫と掃除だけ。ってことはないよね素直に聞いたほうが早いよね。うん、私にはわからないから聞こう。あ、でも外を眺めてるから話しかけるのはどうなんだろう。お屋敷についたら聞けるよね、でも今のうちに聞いておかないといきなりわからないまま仕事をしろって言われるかも。でもなぁ烏に少し似ててちょっとこの紳士様怖い。さっきみたいに私を見ててくれたらこう話しかけやすかったのに。話しかけて答えてくれたからいい人なんだろうけれどあの目が怖いなぁ。今はまだ話しかけるのをやめておいたほうがいいよね。でも、聞いておけば良かったかも知れないし。聞いたらさっきみたいに答えてくれるかも知れないよね、見かけは怖いけれど、優しい人なのかも。力仕事もできるだろうの後にどんな仕事ですかって聞けば良かった。何も思いつかない、どういう風に声かければいいの。あっこっち向いた。
「屋敷が見えたぞ降りる準備をしたまえ」
えっもう、ちょっとしか経ってない気がするのに。今聞かないと聞く時間が。わぁ大きい。大きい屋敷だと思ってたけれどこうして近くだとすごい大きい。こんな大きいお屋敷で働けるなんて。私の家よりも大きい、ううん麦畑よりも大きいかも。ぐんぐん近づいてどんどん大きくなってる。なんて大きいでしょうこんなに大きいんだから金貨六枚、大きいお部屋いっぱいの金貨があるのかな。遠くから見ててお大きかったのにこんなに大きいなんて白くてピカピカで大きくて。うん大きい
「大きい」
「いいか、お前は今から使用人になる。なるにあたってこれからお前が気をつけるべき唯一のことを教える。忘れないようにちゃんと覚えておけ」
「はい」
それだけ覚えていればいいんだ。じゃあ簡単だ。私も忘れないかも。あ、でも長かったら覚えきれないよね、難しいやつも無理かも。
「旦那様を怒らせないことただそれだけだ」
「旦那様?」
「領主様のことだ」
「ああ、なるほど分かりました」
よかったぁそれだけなんだ。人を怒らせないことを覚えておけなんてとっても普通だ。全然難しくなかったよ、そんなの毎日やってるからもうわかってるもん。ああでも領主様は起こるとお父さんよりもずっとずっと怖いってことなのかな。うん大丈夫、お父さんにだってあんまり怒られたことないんだもん、領主様を怒らせることなんて。迷子になったら絶対怒られるよね、仕事しないといけないのに迷ったら仕事ができないんだから。迷わないように気を付けないと。あんなに大きい所。門だけでも大きい。あれ、門から遠ざかっちゃうの。
「お屋敷に入らないんですか?」
「表門からは使用人は入らない。裏口が専用の出入り口になる。そこを使うこと。覚えておけ」
「はい」
覚えておくことまだあった。だよね、私が覚えるのは領主様を怒らせないことと、私は裏口を使わないといけない。怒らせない裏口怒らせない裏口怒らせない裏口。怒らせない裏口怒らせない裏口怒らせない裏口怒らせない裏口怒らせない裏口。今ならどんな仕事するか聞ける。
「あの」
「付いたぞすぐ降りろ」
「はい」
ああダメだった、さっき聞いておけばよかったよ。暗い!ここはなんだろう色々置いてある領主様のお屋敷というよりもなんだろう、うーん洞窟。洞窟かな。だからそんな洞窟にいるかこの人まるで岩みたい。
「この子が今日から働く子かい」
「そうだ、仲良くしてくれ」
「元気そうではあるね」
「農家の娘だ。裁縫ができる」
「そうかい」
「それでは後は任せた」
紳士様どっかにいっちゃう。だから目に怯えないでちゃんと聞
「うわっぷ」
「直ぐにその服に着替えな」
「はぁ」
「聞かれたらはいって答えるんだよ!いいかい!」
「はい!」
体が大きいととっても怖い。女の人とは思えないよ。どこで着替えればいいんだろう。
「あのどこで着替えれば」
「ここだよ今すぐ」
「ここですか」
「グズグズするなぶつよ」
そんな、チラチラ人が通るのに。こんなところで着替えるなんて、これ全部脱がないといけないんだよね。エプロンだけ付けるわけじゃないよね。恥ずかしい。
「なにやってんだい、早く」
「はい」
素早くささぁっっと着替えれば見られずに行けるよね、それで。
「ゾンナ、ゾンナいんだろいたら早く来ておくれおいゾンナ」
「ここにいます。そんな大きい声をあげなくても分かります」
また人が増えた知らない人に着替えを見られるのが普通なの。変なの。
「ゾンナ新入りだよ、着替えが終わったらすぐあんたの部屋に連れて行くんだ。そこで荷物置かせたら仕事させな。いいね」
「ええ分かりました」
木の肌みたいな人。ゾンナなんて変わった名前、同じ部屋に連れて行くっていうことはこの日ウトと同じ部屋なのね。仲良くなれるかな、一緒に働くならここのこといっぱい聞けるはず。そしたらもう迷う心配なんて。
「着替えました」
私似合っているかな。
「じゃあついてきなさい」
右左右左上上、どこまで歩けば着くの。ダメだもう覚えられる気がしない、今すぐさっきの場所に戻ってなんて言われないよね言われたら私はもうどこかわからないところに消えてしまいそう消えちゃうよ。そしてゾンナさんはなんでずっと喋ってくれないんだろう。かといってあんまり領主様のお屋敷でおしゃべりができるの?私。できないできない外だけじゃなくて中も綺麗なんだもん。さっきから私とゾンナさんしかいないし。今すぐおうちに帰りたい。私たちしか本当はこのお屋敷にいないんじゃないのかな。静かだし喋りにくいよ。こんなおとぎ話の中みたいなところで、私とゾンナさんだけなんて。私同じものを着ているはずなのに何かすっごくこうダメダメに見える。やっぱり私ここにいちゃいけないんじゃないのかなっと、足音。ようやく前から人が来る。何!何!何!いたいたいいたい何でそんなに引っ張るの。
「ななななんですかゾンナさん」
「しばらく黙っていなさい」
「はい黙ります」
よくわかんないけどよくわかんないや。なんで壁際で静かにしてないといけないんだろう。この壁もすごくピカピカしてる、近くから見てもピカピカ綺麗。家の壁なんかとお違いだよね、あの窓も風が入ってこないだろうし。
「キョロキョロしないで下を向いて。来る人をあまり見ないで」
コソコソ声なのに何でこんなに大きく聞こえるんだろう。下を向いてたら床しか見えないのに。床も綺麗。ここを掃除しないといけない、これからやっていけるのかな、ああどうしようすごく不安になってきた、ぼーっとしてたらお母さんに怒られるでしょここじゃもっと怒られるに決まってるし。今から来る人を見たら怒られるんだよね、気をつけないと、でも見たら怒られる人って一体。
女神様、女神様がいる、足音が聞こえて顔を上げたらたら女神様がいた。コツコツ聞こえたでしょ誰が来たのかなって思ってパッて顔をそっちに向けたら女神様がいた。人が来た見たら女神様?女神様、とっても綺麗な人がいた。青色、とっても濃い青色の服を着た人がいて、その人が私を見てニコッて笑ってあれはやっぱり女神様だったよね。きっと女神様。おとぎ話に出てくるような女神様。こんな服を、こんなって言ってもゾンナさんは似合っていて私が合っていないだけなんだけど、そんな私を見てもあんなに綺麗な、柔らかい?明るい?光ってる?優しい!笑顔をくれて、あんな人がいたなんて。胸がお腹がすごく痛いよ、すごいなぁ麦畑みたいに綺麗な金色の髪に雪みたいに白い肌、目は黒色だったかな青色だったかな、もっとじっくり見たかった、どれくらい見てたんだろう一瞬、どうしよう一時間くらい見てた気もするそんなはず無いでしょ。あの金色の髪が今も目の前にある気がする。家からでも見えたあの太陽を反射して見えた麦畑、髪の一本一本が麦みたいにキラキラ光って、とっても綺麗な宝石みたいな人。宝石よりももっと綺麗だった、宝石見たことないけど。宝石より綺麗なものってなんだろう、やっぱり一番綺麗なものって麦畑だよね。多分宝石って麦畑より綺麗だよね、あれよりも綺麗な物でしょ、それよりももっと綺麗なものなんて何があるんだろう。何が、何か女神様かな。
「着きました」
「わっはい」
危なぁぁぁい危うくぶつかるとこだった、いきなり止まるなら止まるって言ってくれると嬉しいのに。
「今日からここがあなたの部屋です、すぐ荷物を置いて」
「はい」
なんだろう、すごい寒い部屋。廊下みたいに綺麗じゃない、毛布があっちこっちにもしかしてここでいろんな人が寝ているのかな。ここで今日から寝るんだ、だよね私がおとぎ話みたいなところで住めるわけないもんね。やっぱりおとぎ話みたいなところはあの人みたいに綺麗な人が、領主様の奥さんかなあの人。そうだよ、そう言う人しか住めないんだよ。
「荷物は置きましたね、では大切なことを今から教えます、いいですか」
「はい」
「まず、さっき出会ったのは奥様です」
やっぱり!
「もし廊下で奥様や旦那様にあったらすぐに隅にはけること声をかけちゃいけないません」
「はい」
女神様、奥様、女神みたいな奥様。じゃあ領主様は神様みたいな人。
「何故いけないのか、ちゃんと聞いてください。いいですか、まずこの屋敷において使用人は家具です。道具と言っても良いです。道具、です」
家具、道具!
「道具。人間じゃなくて、道具?」
「一度その使用人の服を着た時点で人間ではなくなります」
「でも」
「納得が行かなくてそこは覚えていてください。そうすれば次の話が理解しやすくなります」
まだあるの。
「この屋敷では旦那様が主です。なので怒らせてはいけません、どういうことだか分かる?」
さっき言われたことだ、そんなに怒られると怖いんだ。ああダメだ変なことやって怒られる気しかしてこない。
「変なことしないように頑張ります」
「その変なことってどういうこと」
「あの、仕事を忘れてぼーっとしたりとか、うっかり話を聞き間違えて全然違うことをしちゃったりとか」
あっ顔が柔らかくなった。
「あなたは純粋な子ですね」
そんな純粋なことやったかな。純粋なことってなんだろう、あれ今何か変なこと言っちゃったかなきっとそうだ。変なことしちゃったから、最初の日に変なこと言っちゃうなんて。
「この家で奥様に近づく。それが旦那様が怒ることです。あなたが言ったことをやっても叱られるだけですが、もし奥様に近づいたりましてやお話なんてしたら

殺されます」

って言った、今そういったのかな聞き間違い、かな。冗談じゃないみたいだしだってこんなに怖い顔してるもん。お父さんは冗談を言う時は笑って言うんだから、こんなに怖い顔はしないよね。じゃあ奥様に話しかけたら殺されるって。そんな、あんなに優しい顔で私を見て笑ってくれたのに。お腹が痛くなってきた。
「あの、何で」
「この屋敷で一番人としての扱いを受けていないのは奥様です」
一番人としての扱いを受けてないのは奥様。一番人としての扱いを受けてないのは奥様。
さっき使用人は人として扱われないって言っていたけれどということは奥様は使用人より下。そんなそれこそなにかの冗談でしょ。あんなに綺麗で優しい奥様が私なんかよりも下。そんな、そんなに嫌いなら領主様すぐに別れちゃえばいいのに。
「奥様が嫌われてるのは分かりましたけれど」
「逆です。旦那様はこの世の誰よりも愛しています」
「それじゃ」
「言いましたがこの屋敷の主は旦那様です。この屋敷の中にあるのは全て旦那様の持ち物なのです。奥様は、そうですね宝石や絵とかそれに似たようなものね。奥様はこの家で最も価値のある物なのです、だから旦那様は誰にも触らせませんし汚れてしまうからでしょう」
奥様は宝石よりも美しいよ。私と喋っても奥様が汚れることなんてないはずあんなに綺麗な人がそう簡単に汚れることなんてある訳がないのに。さっき廊下歩いてたときもただの廊下がおとぎ話の中みたいで、廊下を歩いてたよね。
「旦那様がいない時は近づけたりできるんじゃないんですか?あっ別に近づきたいわけじゃなくて、出来るかな、出来ますよねって思ったので」
「先程、ふたりの女性が通ったことは覚えていますよね」
気づかなかった。
「奥様とお抱えのメイドです。旦那様だけではいろいろ支障が出るのでしょう、旦那様以外で唯一会話が許されている方ですが、あの人が常に見張っています。なので、もし奥様があなたとおしゃべりしたとしたらすぐに旦那様があなたを殺しに来ます」
唯一唯一って旦那様以外でしゃべれる人っていうことで、その人が一人だけっていうことは、奥様がおしゃべりできるのは
「二人だけとしか喋っちゃいけないってそんなこと、何かこう色々何かこう、難しいんじゃないんですか?絶対、他の人と喋らないといけないこととかあるんじゃないんですか」
「旦那様は本当に奥様を愛しているのです。私はこの屋敷で同じ日を4回迎えましたが知っている限り何年も二人以外と喋ったところを見たことありません、もっといえばこの屋敷から出たこともありません」
「そんな」
ずっと家の中で二人だけとしか喋っちゃいけないなんて。今日だけでも奥様、お父さん、お母さん、紳士様、岩みたいな女の人、ゾンナさん。2人だけなんて絶対無理、どうして、どうやって。そんなことできるはずがないのに。
「分かりました?喋ってはいけません、自分から近づいてもいけません。それだけ覚えてれば死ぬことはないからいいわね」
「はい」
「次に仕事を教えます、あなたは今から覚えることが一杯ありますから」
おとぎの屋敷の女神様。おとぎ話の中なのに、宝石なんですね。私は道具、女神様は宝石。奥様は宝石、奥様の女神。奥様は女神、なのに。まるで悪い魔法使いによってカエルに変えられたみたい。王子様が愛で魔法を解いて、、、王子様は何でいないの。

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