そして二人は幸せに暮らしました~その11~

奥さまが領主様達を殺したというのはどうやら皆知っている話らしかった。誰が最初に言ったのかもわからない。そんなことはないよと言ったら信じてくれた。実際そうだもの。ゴルドン様は偶々巻き込まれちゃっただけで、それに生きてる。元気じゃないけれども。でも、結局私がゴルドン様を押しつぶしたようなもの。なのにどうして、こんなことに。

「始まりは近くからだなんて、貴女がお会いした方は預言者だったのね」奥さまは笑ってらっしゃっる。私たちの秘密がこの屋敷の外にまで広がっているのに。「短い間に領主が次々と変わったのですからこのくらいの噂は出ても不思議ではありません。噂が偶然本当だった、それだけです」だと。良いのですが。

魔法から目覚めたみたいです。ずっと奥様しか見ていなかったせいで。どうして気づかなかったなんて。お屋敷の外だけじゃなく中までも噂は広がっているみたい。皆さんが私たちのことを疑いの目で見ている、様な気がします。本当はこんなこと思ったらダメなのでしょうけれど、でもそうにしか見えなくなってきて。どうすればいいのでしょうか、私は。ドンドン悪い方へ悪い方へと考えてしまいます。ずっと前からこういう風に、言ったいつから見られていたのでしょうか。奥さまは気づいていたのでしょうか。きっと気づいていなかった、あの奥様ですら知らなかったことを私が知ってるなんて、もしルクベス三だったら知っていたでしょうか。私は奥様の生活を助ける立場、私が最初にこの話を知っているべきだったのに。今の私は呼び止められるだけであの夜のことを言われるのではないでしょうかとおもってしまいます。奥様はどう思いなんですか。本当にこれはただの噂なんですか。

奥様のお仕事にもこの話は悪さをし始めた。私が気付かなかっただけでずっと前からそうだったのかもしれない。だって広まった話をほかの貴族様達が知らないはずがないのですから。誰も奥様にあなたは人を殺したのですかと聞かないけれども、はっきりとそう思っている、ように見える。本当は誰もこの噂を知らないかもしれないけれど。私はいつも悪い方悪い方へと考えすぎて結局何も怖いことはない。でも、それでも。

私はこれまでおびえていて何とかいけなくなってしまう前になんとかしたかった。死体通りさんに聞いたあの日、私が領主様を殺させてしまった時、初めて奥様に出会った日。結局ただ慌てるばかりで良くなったことなんて一度もない。もし死体通りさんに会いに行かなければこんな噂が流れることもなかったかもしれないのだし。

怖い怖い言ってばっかりそれで良いのですかリアリ。いいえ駄目です。もっと冷静になって奥様のようによく考えて対処しなければいけません。出来るのですか?しなければいけないのですそうですリアリ、頑張れ私。

「黙っている方が自然に噂というものは消えるのですよ、むしろ下手に行動すると噂というのはさらに燃え上がるのです」とおっしゃる。ならば上手に行動すればいいんです。まずはこっそり「奥様に関するうわさをご存知ですか」と聞く。ゾンナさんに。優しいから勿論答えてくれる。

「はい、この耳にも入ってきております。噂を知らぬ者は誰もおりません」

「ああ、やっぱりそうなのですね」

「村からやってくる商人、もしくは村へ行った我々使用人。様々なところから噂はやってきました」村から。

「その噂は」

「嘘です。良く分かっておりますずっとリアリ様のことを見ておりましたから」

「ありがとうございます。それでもしできたらで良いのですけどあの噂嘘だったよーと広めていただけると」

「ええ広めます。リアリ様のご命令ですから」

「命令だなんてそんな」

侍女になる前にゾンナさんともっと仲良くなっていればよかった。命令じゃなくてちゃんとお願いになったのに。もしかしたら嫌々?色々優しくしてくださったのに、こんな迷惑をおかけして。私がもっと。

「あの、出来ればお屋敷の中だけではなく村にも広めていただけると」

「良いのですが、村へ行く仕事をやることはないですし、商人様たちとお会いする仕事はメキュベリー様が」

「大丈夫です」

奥様と相談して、その仕事の多くをゾンナさんに任せることができた。メキュベリーさんにはそろそろお年ですので若い人に任せたらいかがでしょうかと。嬉しいことにメキュベリーさんも「(私を含めて)うちで一番仕事ができる」ゾンナさんに任せようと考えていたらしい。話はすぐ進んだ。ゾンナさんはメキュベリーの次に使用人かしらになるので部屋もさらにいい部屋になり(元々部屋は一杯あるので使用人の皆さんに使ってほしかったのだけれどそういう訳にもいかないみたい)、服も良い物に。今までのお礼はこれで出来ましたでしょうか。しばらく経った時お茶にお誘いした。侍女である私とお茶とは恐れ多いと言ってくれたけれども、私は、もっと、仲良くなりたい。

結局ゾンナさんと何を話していいのかはわからなかった。なので報告だけで終わってしまった。行くたびに噂に関する情報を自然に否定して回っている。本当に大変なことをお願いしてしまって、ゾンナさんには本当にありがとうございますって言ってもまだまだ足りない。

「やはり不安が広がっております。領主様が2人続けて階段からの落下で交代するというのはあまり良いことではないですからね。奥様方の耳には奥様に関する噂しか届いていないのでしょうけど実際はいくつか噂がありました。ゴルドン様はすでに亡くなっているという噂を初めとして、今回の出来事はかつての戦争における亡霊の呪いのせいですとか」

何だ不安になることなかったんだ。あくまで奥様の噂だったから私に話してくれただけでそれ以外にもいろいろあったんだ。結局奥様の言うとおり何もしなくても噂なんてなくなっていたのかも。

「リアリ様についてもありました。奥様をたぶらかした悪女だという」

「えっ」

「魔女だという」

「ああ」

「あくまで呪いと同じくらいの戯言です。気にしないでください」

ルクベスさんは私が悪いといった。やっぱり他の人にもそう見えているのですね。誰が見てもそうなのでしょうか。それはゾンナさんにも????

「何か」

見ていたら変な風に思われたかもしれない。とりあえずこれで、また楽しく生活ができる、ゾンナさんには感謝してもしきれないくらい。もし私が初めから噂に気付いていたのならば、ゾンナさんを煩わせることもなかったのに。よし頑張ろう。

「ありがとうございますゾンナさん」

 

と思っていたのに。

「まさかこんなことになるなんて」

「申し訳ございません本当に申し訳ございません、申し訳ございません」

「いいえ、この責任はすべてわたしにあります。領民の信頼を得ることができませんでしたし、それにここまでのことは予見できませんでした」

あの後からはまぁそれそれはもう良く分からなかったですから。奥様は悪くありません、ええ良く分からなかったのですもの。

窓を見ると村の人たちが叫んでいる奥様を出せと。悪女だ、魔女だ。魔女はわたしじゃなかったんですか。どうして奥様をそんなに。

「奥様の言う通り何もしなければ」

「いいえ、これは関係ないでしょう。いくら燃え上がったとしても、領主を引きずり出そうとするのは異常なことですから」

「そういうものですか」

だったらどうして。

「これはわたしの方かもしれませんね」

「奥様?」

「この騒ぎは明らかに誰かが先導しているとしか思えません。そしてそれで得をする方々はまぁ思いつくだけでも両の指では足りません」

奥様の側にいたのにまったく思いつかない。でも、奥様は貴族様と素晴らしいやり取りをしてきた。あの中に奥様を陥れようとする人がいたのでしょうか、きっといたのでしょう。ああ、本当に何も見ていない私が見ていたのは奥様だけなんだなぁ。その奥様も私は本当に見ていたのだろうか。今奥様は何を思っているのでしょうか。ドアをたたく音がする。チーリーさんが鳥のような顔を崩している。

「奥様失礼いたします、村の方々に説明をしたのですが、奥様を出せとの一点張りで」

「そうですか、それでは仕方ありません」

「私が行きます」奥さまが行く必要は一切ありません全部私が悪いんですから。

「ですが」

「大丈夫です、村の人たちのことは村に住んでいた私が一番知っています。ただ不安なだけなんです、自分たちを支えてくれる領主様が噂通りの人だったらと思うと怖いんです」多分。

「分かりました」とおっしゃっていただけるまで長い時間がったように思える、でも今思えばすぐだったような気がする。決して危ない真似だけはしないでと、もし危険なようでしたらすぐに戻ってきてくださいと。でも、大丈夫村の人たちだもの。きっと優しいはず。扉から大きな声が聞こえる。怖いでも大丈夫。私奥さまの侍女だもの。

開けると皆が私を見る。リアリちゃんだとつぶやく声が聞こえる。

「ええと、皆様お久しぶりです。リアリです、ええと麦畑のジョンサンの娘です。今はこちらのお屋敷で奉公させていただいております。噂は私も知っています、あれは嘘です。最初の事故はうっかり足を踏み外しちゃ、外してしまっただけで、次の事故は前の侍女様がうっかり踏み外しちゃった時偶々下にいて下敷きになって強く打ってしまっただけです。ゴルドン様はまだ生きています。都の館でお医者様の治療を受けている最中です。偶々同じようなことが重なってしまっただけなんです。ええと、ここの階段はうっかりしていると落ちちゃうくらい急、ではないんですけど。でもこう、なんだかうっかりしちゃいそうな、その」上手く言えない。

「もう良いよリアリちゃん、どうせ言わされているんだろう」

「違います私が言っているんです」ダメだ何だかいやな感じになってきた。

「こんな子に言わせるなんて」

「なんて恐ろしい」

「待ってくださいどうして、」何も知らないのにどうして。

「リアリちゃん、奥様がしたことはみんな知っているんだよ」

知らない知らないはず。確かに魔法使いを奥様は、殺してしまったけれども。そのことじゃない、皆領主様は階段から落ちたと思っているんだもの。

「俺たちは知ってるんだあの女領主が自分の夫を花瓶で殺したって」

花瓶。いえ、偶々、偶々花瓶で殺したってなってるだけ。だけども階段から突き落としたってならないでどうして花瓶のことが。落ち着いて、冷静に。

「そんな話、いったい誰から聞いたのですか」

「俺は、出入り商人から聞いたぞ」

「俺はロビンズからだな。あ、いたおいお前は」

「おれは、ジェドだよ」

「何だアイツからかよ」

「ジェドは貴族の小間使いから来たって言ってたぞ」

「なんであいつが貴族なんかと」

「なんか領主を調べてるってが来たって」

「酒飲んで夢でも見たんじゃないのか」

「いやおれ、その時見たわ多分」

「本当かぁ?」

「何か上等な服を着ている若い女と話していてよぉ」

「じゃあ本当じゃないのか」

「どうして貴族なんかがこんな所に」

「怪しいんだ怪しい」

「おいおいちゃんと、聞いてたやつはいないのか」

「アタシはここのメイドから」

「ああ私もそうだ」

「メイドがいってるということは本当じゃないのか」

「女どもはうわさ好きだから」

「レスが酒場の女に手を出した時も噂でえらい目にあったからな」

「国の監視官だな」

「監視官って何だよ」

「そりゃ監視してるんだろう」

「やっぱり国が動いているのか」

「さぁ、知らん。でも若い子が聞いてきてよぉそん時に話されたんだよぉ」

「良く分からん女が話してたのを聞いた」

「お前の話が良く分からんよ」

ドンドン話が「あの皆さん結局、どこが最初の話か分からないってことですか」

「まぁ、最初に聞いたのは誰だ」

「俺か」

「タギー婆さんじゃないのか」

「そんなあやふやだったら皆さんが怒るような、ちゃんとしたものはないのではないですか」

「でも、みんないってるしな」

「俺なんて国の役人から聞いたんだぞ」

「一人だったら嘘かもしれんが色んな奴からだったら」

「嘘か、色んな奴が一斉につくのか」

「領主様を陥れようとしているのではないですか」

「何の意味が、こんな田舎に」

「女だから生意気で怒りでも買ったんじゃないのか」

「前の領主が死んでから急にしゃしゃり出て」

「やっぱりやったんじゃないのか」

「やってないのなら何か証を見せてくれ」

「そんなやったって証もないのに」

「この噂が証なんだよ」

そんな無茶苦茶な。皆はもう奥様を犯人にしようとしている、どうしてあんなにやさしいのにどうして。どうしてこんな勝手なことを言えるの、奥様は私の為に。そうです私のためです。だったら私が殺したと言えば。かばっていると言われるでしょうか、言え奥様が私をかばっているのです。そうです、このまま奥様が犯人にされるのならば。

「皆様よくお聞きください」お父さんお母さんポーリア、奥様ごめんなさい。

「領主様を殺したのは」

「私ではありません」

美しい声が雷のようにそこを通り村の奥まで聞こえる気がした。横に奥様が。

「確かに私の夫と父は続けて不幸な事件でその座を退きました。しかしあくまで不幸なのですその不幸を利用しようとする人間がいます。いいですか、この村の麦は毎年質は良く多く取れるので安定した収入となっております。その収入を欲しがるものは少なくありません。私が退いて他地方の貴族が思惑を持って兼任するか、その息がかかったものが領主となるでしょう。そうなった場合皆様はただ搾取されるだけなのです。それを行うには私のような女が領主で不幸が相次いだ今がちょうどいいのです」

奥様は凄い人だ。あんなに騒いでいた人がもう静かになっている。

「どちらを信じるかは領民の皆様次第です。ですが、私を是非信じてください。リアリ戻りましょう」

音がしなくなった場所を離れた。奥様は喋らなかった。私は喋れなかった。

窓から見ると村の人たちは徐々に、帰って行った。それを見届けるとお屋敷中の人を読んだ。「今回の騒ぎは私が信頼を得られなかった証です、皆さんには不安な思いをさせてしまいました。申し訳ありません」そんなことありません、奥様は悪くありませんと慌てている。もう私にはわかります、格下の使用人に貴族である奥様が謝るだなんて。恐ろしいことです。でも奥さまは謝っていただける。夜の部屋で奥さまは優しく。

「リアリ、私は使用人からも信用されなかったのですから、あそこで怒ってしまうとより一層本当だと思われます。きちんとした態度が幸福への近道なのですよ」そう言う奥様の音はトクントクンと温かった。

花瓶の話には奥様もどうしていいか戸惑っている様子。

「花瓶だなんて、偶々と言うにはあまりにも直接的すぎますね」

やっぱり偶々だなんてことは。難しいですか、そうですか。だったら。

「何か割れた花瓶を見ちゃって」

「それは庭に埋めましたから見つからないはずです」

「埋めた、奥様がですか?」

「他の方にやっていただくわけにはいきませんからね。園芸小屋にはシャベルがありますから広い庭の片隅にも埋めれば陶器のかけらぐらい誰にも見つかりません」

「やっぱり、誰か見ていた人がいたんですね」

「ルクベス、ではないと思いますが」

「でも、あの夜部屋の前にいたのはルクベスさんだけです」

「部屋の前ではそうですが、どこか気づかないような死角から見ていたのでしょう。気づきませんでしたか」

気づけませんでした、奥様のことしか見えてなくて。ああもう、ちゃんとしていたら私はちゃんとすると思うまで遅かった。

「とりあえず、今は落ち着いたでしょうけれどその内また騒ぎになるでしょう。これは意識を持ってつくられた物でしょうから」

「そうなんですね」

「大方他の貴族にたぶらかされたという所でしょう。ならばこれで終わりとは考えないほうが良いでしょう」

「それは、あのもしかして」たぶらかされた、誰がと言わないことはそういうことなんですよね。だったら、それは、言ってはいけないしそれを聞いちゃいけない。だけれども。

「ルクベスさんも入りますか」

「そうですね」

奥様の口からききたくありませんでした。どうしてそんなこと。

「ただ、私はリアリが信頼しているので信じたいですし、元々表に出る仕事を与えておりませんでした。噂を広めるのは難しいでしょう。勿論休みの日に外出して広めることは可能ですが、そこまですることは大変ですからね。それに大金を渡されてやった仕事だとしても途中でかなり給金を増やしましたし。どれだけの大金をもらえるかわかりませんが、使用人頭としてこのあと手に入るお金を超えることは難しいのではないでしょうか。そんな大金を一人に払うほど良い計画とは思えません。恋心を餌にさせることだと可能ですが、どう思いますか」

「分かりません」私は結局、何もかも知らないんです。

「と言う風に疑える要素も疑えない証拠もないです。ただリアリの信用がある分他の使用人の方が疑わしいのです」

良かった。では誰なのでしょうか。

奥様はチーリーさんは関係ないと思い(あくまで犯人は下級の使用人だろうと)私と一緒に調べるよう仰った。部屋を調べ大金か貴族様からの恋文が無いか調べた。なかったので本当によかった。チーリーさんは使用人の家を調べここ最近怪しい儲けや援助がなかったか調べた。奥様の交友関係を利用して事細かく当たったらしいですけどそういった物はなかったと。私は、直接使用人の皆さんと話した。皆さん良い人だった。そして、ああ怪しい人を聞いた。誰かを疑うような悪いことは聞きたくないのに。私の話し方が悪かったのかすぐに噂のことだと気づかれてしまう。もっと奥様みたいに話したいのに。あの子は怪しい、あの人は村によく行くと教えてくれる。だけれど結局それもそう思うだけで。でもよかったのはゾンナさんのことを誰も悪く言わなかったこと。入ってきたばかりの子は言ってくれた。ゾンナさんはとっても真面目でいい人。そしていつもリアリさんのことを話してくれるって。あなたもがんばれば彼女のように出世できますよと。そんな人が私を貶めるようなことをすると思いますかリアリ。いいえしません。ゾンナさんは私にこのお屋敷のことを教えてくれた人です。入って何もできなかった私がこうやって侍女としてお仕事出来るのはゾンナさんが教えてくれたからです。私にとってゾンナさんは恩人なんです、だから、そう、嘘です。

 

嘘なんです。

 

これは嘘なんです。

 

それか夢ですね。

 

そんなことありえるはずありませんから。

 

もしくは罰ですね。届け物を見ようとした罰が。

 

その日だけはメキュベリーさんもチーリーさんも所要で外出していて、ゾンナさんが代わりに指示を出していて。そんなゾンナさんを手伝いたくて来客の合間に、手紙を。それだけだったら私にもできますし。そしたら子包みがちゃりちゃりしていて、あっ割れちゃってるどうしようって。きっと馬車の振動で壊れちゃったんだ。ちゃんと出して直せそうだったら早く直さなきゃって。そんなことが悪かった。

花瓶が花瓶が庭に埋めてるはずの花瓶がゾンナさんの家からゾンナさんの元へ。偶々同じ花瓶があっただけだと。でも偶々偶々偶々偶々、偶々なんてないんです。あるのはやったことだけ。私の、奥様のそしてゾンナさんのやったことだけ。ですよね

「ゾンナさん」

「手紙を配ろうと来たのですが、これはどうしようもない」

「ゾンナさんあの」

「私は今更何も言うことはないでしょう。見ていたそして話した。それだけです」

嘘です。

「でも、どうやって。ずっとお屋敷に」

「休みの日を使えばどうにでもなります」

「でも、ゾンナさん一人であんなに広めたんですか。そんなの無理ですよ色んな人から聞いたって」

「使用人一人だけだったら。でも上等な服を着て別の身分を言えば騙されます。私一人でいくつもの噂の始まりを作れる」

「でも、ゾンナさんは否定してもらうために村によく行くように。あれっこの前の人は使用人だったのかって」

「ええ、それは大変でした。ただ髪型と化粧だけで気づきません。殆どすれ違うだけですしね。それによく合う人には私から話せばいいだけです」

どうしよう、何を言っても返されてしまう。どうすればゾンナさんは犯人じゃなくなるのでしょう。考えて考えて私。ああでも、この花瓶は。

「リアリ様は優しいです、こんな状況でも私を信じてくれる。だけどもその花瓶はどう説明しますか。何故同じ花瓶が私の家から届くのですか。説明してください」

「それは」

「無理ですよね、正真正銘領主様を殺した花瓶ですよ。惜しかったです。実家は良い隠し場所だと思ったのですが」

いつもよりもずっと楽しそうに笑っているゾンナさん。本当に私の知っているゾンナさんなんですか。優しくて教えてくれる。どうして否定しないんですか、どうして。

「どう、して」

笑うだけ。

「お金ですか」

「いいえ」

「脅されたんですか」

「いいえ」

「貴族様に」

「いいえ」

「ではなんで」

「私は見ていたのに貴女は見てくれなかったからです」

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