編集長の園田です。先日、くすのき荘で【BITEキャラバン/木賃文化週間版】というイベントをやりました。その際にトークゲストとして参加してくれた益山貴司さんの公演が近いということで、それについて書いてみようと思います。益山さんは劇団子供鉅人という団体を主宰し、劇作家・演出家・俳優として活動されています。子供鉅人は、本多劇場などの人気劇場で公演することもあれば、ギャラリー、野外、そして家、等々、多彩な場所や環境を劇空間に変貌させ公演を行うことも。その子供鉅人が7年振りの「家公演」として、新作『SF家族』を目黒の一軒家ギャラリー・rusuにて上演します。先日のイベント中にお聞きした『SF家族』に関するトークを少し紹介すると……。
−−新作公演のタイトルは『SF家族』。会場が目黒区にある一軒家ギャラリーですから、SFというキーワードは少し意外でした。
益山 過去の家公演では、空間を“家そのもの”として扱うことが多かったので、今回は一軒家をロケットという設定にして、家が宇宙空間を漂っていると。つまり壁の向こう側には宇宙空間が広がっている。そういう設定にして……、いま(創作過程で)苦しめられています(笑)。宇宙空間の描写はどうしよう? とか。
−−会場内が宇宙船になっている?
益山 家そのものが宇宙船で、そのままゴゴゴーッと宇宙へ、みたいな。いいやん! と思ったけれど、映画『ジュマンジ』の続編にあたる『ザスーラ』という作品で、家ごと宇宙へワープしちゃう映像を観て、「うわー!」と思いました。
−−あっ、これだ! と
益山 もう映像化されとるやん!(笑)。
−−出演者は6名で、全員が家族役?
益山 そうです。4人芝居なのでAチームBチームに分かれています。
−−チラシには「シリアス・コメディ公演」とありますね。
益山 それにも苦しめられています。宇宙船でシリアス、みたいな。でも、ちょっとビターテイストも混ぜたコメディになりそう。家族の話なので、ほろ苦いことも描かなアカンと考えました。
−−会場名は目黒のrusu、これは何と読むの?
益山 「るす」と読みます。JR目黒駅から歩いて15分程度。公演チラシの写真は、正にrusuの表玄関で撮りました。
−−この会場を選んだ理由は?
益山 それはもう、貸してくれるからですよ(笑)。演劇してもいいですか? いいですよ! という。ここは劇団員から教わった場所で、(ギャラリーの管理者と)お話させて頂いたら、芝居はまだやったことがないらしく、それなら我々が前例を作ろうと。すごく盛り上がるか、もう演劇はこりごり、みたいなことになるか(笑)、それは分かりません。
−−「演劇上演可のギャラリー」というのが大きな理由ですか?
益山 この空間なら客席がこう作れるぞ、みたいなことも大切ですし、隣接する建物が多いと防音対策に苦労するけれど、ここは隣が駐車場だぞ、みたいなこともあります。もちろん「ここで上演したい」という意思も大きいです。
−−いま絶賛稽古中だと思いますが、手応えはいかがでしょう?
益山 やはり上演場所から受ける影響が濃く、稽古場でやったことが全く通用しないケースもあるんですよ。稽古で作ったものと空間がちぐはぐ、みたいなことが起こり得る。例えばここに扉があるのに使わないのはおかしい、とか。扉がある以上、そこに意味が生まれるので、我々が稽古で考えたことと整合性がつかなくなる。そのすり合わせを結構時間をかけてやらないとアカンから、そこが面白くもあり、難しくもあり、という感じです。
−−古民家系は尚更そういうことがあり得ますよね。
益山 ある芸術家の言葉を借りれば「芸術は制約だ」ですから。制約が多いほど面白くなる。
−−ちなみに上演時間はどれ位ですか?
益山 今のところ80分から90分程度を予定しています。
−−会場内を移動して観劇するシーンはあります?
益山 ありますね。
−−7年振りの家公演ですし、劇場公演にない仕掛けや意外性のある演出にも期待しています。
益山 次のシーンは隣でやりまーす、みたいなことではなく、移動する理由がちゃんとあり、「じゃあ、お客さんも一緒に移動しましょう」みたいな流れになると思う。ぜひご期待ください。
この公演、一ヶ月のロングラン公演で、尚かつ2チーム制ということもあり、リピート観劇の楽しさにも注目したいところ。日程序盤と終盤を見比べたり、チーム別の差異を味わったり。開演時間も、午前中、午後、夜と3パターンあるので、太陽の位置で室内の雰囲気が変わることもあり得ます。一軒家でのロングラン公演は珍しい機会ですし、観劇というより、家公演をまるごと「体感」して頂きたいです。
【公演情報】
劇団子供鉅人 2019年、春の新作公演『SF家族』
2019年4月1日(月)〜29日(月・祝)@rusu(一軒家ギャラリー)
作・演出◇益山貴司
出演◇キキ花香 益山寛司 影山徹 億なつき 古野陽大 益山貴司
投稿者プロフィール
- ○演劇ライター、編集者、演劇雑誌『BITE(バイト)』編集長。2005年より演劇専門誌『演劇ぶっく』の編集部員として国内現代演劇の最先端を取材。演劇ぶっく副編集長を経て、現在は演劇雑誌『BITE』を発行、マスメディアの取材対象になりにくい小劇場シーンを積極的に取り上げている。この他、演劇情報媒体での執筆や演劇関連事業に携わるなど、その活動範囲は多岐に渡る。年間観劇数は150〜200本程度。落語、散歩、文鳥が好き。